Welcome to AFS YP15

田中 章

田中 章

田中 章

Centennial High School, Pueblo, Colorado

AFS体験に思うこと

太平洋戦争終結より66回目の夏が過ぎようとしている。夥しい犠牲者を出したこの戦争が終わって5年後に私は生を受けた。そして、それより18年後にAFS15期生として私は他の仲間と共に嘗ての「敵国」アメリカに渡り、一年を過ごすこととなった。
所謂「戦後世代」として育った私は、アメリカという国・国民に対し、何の悪感情も持っておらず、寧ろ洋楽を聴いて育ったことにより同国に大いなる憧れすら抱いていた。中学校の英語担当教師よりAFSの存在を知らされた時、すぐに応募を決意したのは当然の成り行きであった。
幸い選抜試験に合格し、知らされた留学先はアメリカ中西部にあるコロラド州プエブロという地方都市。1968年1月にアメリカ海軍の環境調査艦プエブロが北朝鮮に拿捕されるという「プエブロ号事件」が起こり、プエブロという名前は聞き覚えがあったのだが、この町はその名が示す通り、アングロサクソン系とメキシコ系住民が混在する地域であった。
日本・アメリカを含め全世界で若い世代を中心に大学闘争、ベトナム反戦運動が高揚し、一種騒然とした激動期であった60年代末の夏、私はプエブロでの高校生活をスタートさせた。

ホストファミリーと田中章

ホストファミリーと

ホスト・ファミリーは典型的アメリカ中産階級の家庭で、小児科医の父、ネイティヴ・アメリカンの血を引く母、兄と妹の二人の兄弟。第二の家族となったホスト・ファミリーや学友が温かく受け入れてくれたことは言うまでもなく、慈愛に満ちた家族に恵まれた留学生活はまさに昔観たアメリカのホーム・ドラマ、或いは映画の世界のように楽しいものであった。が、しかし、アメリカ社会で日本人差別を全く感じなかったかというと、そういうわけでもない。
また、ホスト・マザーと「神は存在するか」という今となっては気恥ずかしいような議論をしたりもした。更に、授業でのディベート等を通じ、多種多様な価値観が存在し、先ずそれを認めることから出発しなければならないということを肌で感じさせられたことはその後の私のささやかな歩みの原体験となっている。
太平洋戦争をその一局面とする第二次世界大戦が終結してから半世紀が過ぎた現在でも世界中で戦乱が続いている。国への愛情が生まれ育った土地(country)へのそれではなく、現存する国家体制(state)への無条件の従属にすり替わってしまう時、次の戦争の危機が迫るだろう。
私がAFS体験を通じて学んだことは、偏狭なナショナリズムの超克の重要性だ。○○人だからこう、△△人は…という、人間をそのエスニシティによって単純に類型化する考え・行動は、ある一定の社会体制の元で醸成されてきた民衆の意識がその国家を構成する民族のエスニシティそのものに根差しているという誤った結論に直結する。 
先日AFS友の会の方が制作に協力された番組「“9.11テロ”に立ち向かった日系人」(NHK、8月15日)が放映された。これは9.11後、「イスラム系だから…」という理由だけで迫害・差別を受けた在米のムスリムの人々を守ろうとした、アジア系アメリカ人として初の閣僚となったノーマン・ミネタ元米国運輸長官のドキュメントである。彼は日系二世の故、第二次世界大戦中に家族共々ワイオミング州の日系人収容所に送られ、悲惨な生活を送ったという。
改めて、民族・宗教などによって偏見を持ってはならず、AFSという異文化体験をした我々こそが、あらゆる差別と偏見を根絶し互いの尊厳を認め合う世界の実現に寄与しなくてはならないと思う。

Centennial High School 卒業式

Centennial High School 卒業の日に

AFS帰国生の多くが大学卒業後、金融・教育・官庁等の方面へ進んだのに対し、私は音楽産業に進路を取った。今に至るまで日本のAFSリターニーでこの業界に進んだ人間は極めて少数のようで、特に当時としてはかなり冒険的で特殊な進路選択であったわけであるが、周囲の反対は無かった。

国際部門に於いて海外出張で飛び廻る中、世界中の多くの国々のアーティストやスタッフと信頼関係に基づいた交流が出来たと感謝し、また自負するのは独り善がりだろうか。しかしそれは確かにAFS体験で培われたものであり幸せな経験であった。

現在私はAFS友の会、AFS湘南支部等でボランティア活動に従事しているが、世界と競い対抗するのではなく、まさにAFSが掲げる、”Walk Together, Talk Together”ということを、若い世代に伝えて行きたいと思う。
                       

(2011年9月20日記)

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